日本をながめて
狼をよく描くようになった過程で狼信仰を知るようになり、神道や自然崇拝、仏教などの信仰、日本における習俗などの知識に触れる機会が増えました。私は北海道札幌市の住宅地で育ち、正月や節句などは一通り経験してきていますが、調べてみると、案外に由来を知らないのです。改めて、「日本って?」という視点に 立って、生まれ育ったこの国を眺め、作品として描くことで、その文化をなぞっています。

干支
干支は、日常生活の中でも親しむ機会の多い、日本文化の代表例の一つではないでしょうか。特に正月の頃には、干支にまつわる動物を描く機会が何度かありました。
また、江戸時代には、十二支の動物全てを組み合わせた絵も描かれています。家内安全を願ってのことのようです。


縁起─鶴と亀
干支は、「その年の干支を飾ると縁起が良い」ともされていますが、縁起物とされるものは動植物や品物にも数多くあります。鶴と亀の組み合わせもまた長寿の象徴です。背景 が白い二枚に描いたのは、正月の行事に登場する「屠蘇散」と「七草」。屠蘇を飲んで邪気を払い、七草粥を食べて一年の無病息災を願い、春の気を取り入れます。





節句─正月
正月にもさまざまな縁起物が登場します。歳神を迎えるための「門松」、歳神の依代である「鏡餅」。名前が「代々」に通じることから縁起の良い果物とされている「橙」は鏡餅に乗せられていることもありますが、鏡餅の様式もさまざまなようです。
祈り
2020年の個展「明明後日(みょうみょうごにち)」で展開した、白一色で描く作品群は、白絵(しろえ)を真似たものでした。白絵は平安時代、白木や白綾に松竹梅、鶴亀などを白で描き、安産を願う産所の調度などに用いられたもの。こうした習慣は高貴な立場にある人々のものですが、美しい祈りの表現ひとつだと感じています。
私たちがこれから歩みを進めていく世界にも祝福があるように願いを込めて、岩山が高く聳え、垂れた松の枝からは松葉が生い茂り、天空には巨大な鳳凰が優雅に舞う風景を描いていました。


松
日本では松もまた、吉祥の象徴の一つとして親しまれています。冬も青々とする姿から、「不老長寿に繋がる」とも。
「松竹梅は縁起がいい」というのはどういう由来で決まったのだろうかと調べる中で、私は松脂や松葉の薬効など、実際的な効能があることも知りました。こうした実用的な価値と精神的な象徴性が重なり、「縁起の 良い木」としての地位を得ていったのではないか…と考えています。
縁起が良いとされている植物は松だけではありませんが、私は松に強く関心を持ち、作品の中にたびたび松を登場させるようになりました。日本において、この木を大切に扱うこと、それは何か重要なことのように思えたのです。

神仏
正月になれば神社へ初詣。その前にお寺で除夜の鐘を打って、家には神棚と仏壇が。日本人にとって、神道と仏教は身近な宗教です。はっきりと「信者です」と自覚し公言する人は少ない印象がありますが、生活の中に「神も」「仏も」ある。何度か、神道とつながる神話や、仏教の説話に着想を得た作品を制作し、あるいは阿吽像を取り入れたりもしてきました。
日本における神道、仏教、祖霊信仰、太陽信仰、蛇崇拝…。あまり深く触れずに育ってきた私にとっては、いずれも新鮮に感じられます。それらの要素を、作品の中で用いて「なぞる」こと。そうすることで、私に何か思い出されることがあるだろうか。作品を見る人にとってはどうだろうかと考えています。



作品とその世界
地域によって、時代によって、さまざまな違いと変遷があるでしょうが、昔の人たちは何を思ってそれぞれの信仰やしきたりを組み立てたことだろうかと思います。現代の私たちは現在進行形でどのようなしきたりを組み立ているのでしょう。日本人というのは、どのような文化を持った、どのような民族なのでしょうか。そして私はどのような日本人なのでしょう。
